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会長挨拶

21年目を迎えた樹木医学会は新時代へ

樹木医学会会長 矢口行雄(東京農業大学)

 1991年度に林野庁の「ふるさとの樹保全対策事業」の一環として,巨樹・古木などの樹勢回復・保全に関する専門技術者の養成を目的とする樹木医制度が発足し,樹木医学会はその3年後にスタートしました.樹木医認定委員会委員長の松田藤四郎先生(東京農業大学)を中心に,日本樹木医会,大学,国公立研究機関などから39名の発起人が集まり,学会の設立が準備されました(日本農学80年史より).そして1995年9月4日,東京農業大学で,「樹木の保護,管理等に関する研究を推進し,広く樹木医学の向上と発展を図り,自然環境の保全,生活環境の改善等に寄与すること.」を目的として,初代会長に松井光瑤先生,副会長に鈴木和夫先生,吉田光男先生により樹木医学研究会が発足いたしました.その後,2代目会長,鈴木和夫先生のご尽力により,1998年11月に東京大学農学部で行われた総会にて樹木医学会への移行を決めました.当時の学会記事には「樹木医学研究会は現状で学術研究団体の登録のための要件を満たしていると考えられるので,平成11年に学術研究団体として登録を申請する.」と記され,学術研究団体の名称として,和文名「樹木医学会」,欧文名を「Tree Health Research Society, Japan」としました(樹木医学研究,第3巻,2号).そして1999年,日本学術会議に『樹木医学会』として登録されました.この間多くの会員に支えられ,3代目会長に古田公人先生,4代目会長に河原輝彦先生,5代目会長に伊藤進一郎先生,6代目会長に阿部恭久先生,7代目会長に冨樫一巳先生と20年を歩んできました.また,発足時の会員数は343名でしたが,年々会員数が増加し,2015年9月30日現在の会員数は610名となり,学会の中でも中規模な総合学会としてさらに飛躍しつつあります.

 樹木の病気については,1882年の大日本山林会報に「樹木ノ病ヲ医スル法ヲ問フ」という記事が掲載されているのが最初です.その後,病害虫や気象害からの樹木の保護に関する学問は,樹病学や森林昆虫学,森林気象学などとして林学の中に位置付けられてきました.そして1999年の名著『樹木医学』(鈴木和夫著,朝倉書店)では「樹木の構造・機能を理解し,病気すなわち機能不全の現象を研究し,その診断・治療・予防の方法を開発し,樹木の保全を図る学問」と樹木医学を定義されています.すなわち樹木の病気のみならず,樹木学,樹木生理学,微生物学,昆虫学,造園学,園芸学,土壌学などの幅広い学問を総合的に踏襲し歩んでいく学問です.

 さて,この樹木医学会が21年目を迎え,新時代をいかに進むべきかを考えてみました.独立行政法人農業環境技術研究所の理事長室に「盈科而進 農学博士横井時敬」と書かれた古い掛字があります.盈科而進(えいかじしん)とは,田の水の流れは,科(あな)に満ちて(盈)から先の方に流れていく.学問も一足とびに高いところに至ろうとせず,順を追ってすすめるべきであると解釈します.樹木医学会でもまさにこの教えに基づき着実に基礎を固め,樹木医の方々と一緒に流れに逆らわずに一つずつ,飛び越さずに科(あな)に満ちて先に進むべきだと考えています.すなわち樹木医の診断・治療に対しては,樹木医のみならず,関連分野の多くの研究者や技術者により樹木医学とよぶべき学問体系を構築して,その基礎となる研究を推進すると同時に,診断・治療技術を科学的に検証・確立していくことだと思います.

 横井時敬先生は,1880年(明治13年)東京駒場農学校農学本科を卒業し,1885年(明治18年)から福岡県農学校教諭となり,この間に「種籾の塩水選種法」を考案されました.その後,1894年(明治27年)に東京帝国大学教授になられ,近代農学の始祖といわれています.さらに1911年(明治44年)からは,東京農業大学の初代学長を務められ,東京帝国大学教授と東京農業大学学長の二つの激務を全うされた先生です.横井先生の言う「実学思想」は,先生が残された言葉の中にあり,特に有名な言葉に「稲のことは稲に聞け」があります.私は安易に横井先生の教えに従い「樹木のことは樹木に聞け」と学生に教えていますが,この言葉は大変奥が深く,私自身もまだまだ道中半ばで目標を達成していません.

 最後になりますが,樹木医学会では新たに樹木医になられた方々に必ず入会していただける魅力ある学会づくりを目指しています.年次大会ばかりでなく,様々な現地検討会やワークショップを企画し,樹木医の方々にはCPD(継続的専門能力開発)として実施しています.多くの方々のご参加を期待しています.このように本学会は,研究者と技術者の交流や異分野間の交流を目的とした学会です.今後もこの交流が益々活性化するとともに,会員の皆様方のご活躍を祈念申し上げます.

(2016年1月31日 樹木医学研究 第20巻1号)

地平線に並ぶ樹木